[大隈講堂] × [6:生産]

“バラつき”が醸し出す手触り的感触と性能の更新

できるだけ忠実に過去の材料や製法を研究して改修

生産分野の中でも特に材料についてご紹介します。大隈講堂は、2007年に大規模な改修が行われました。その時点では外装材(※1)は多くがオリジナルの状態で残っていたと言われています。
ただ、外壁タイルは剥離と落下の危険性が高く、撤去し復元する必要性がありました。その際に、できるだけ忠実に過去の材料や製法を研究して再現することが目指されました。
ベースになる木節(きぶし)粘土(※2)と、はだらとして発色する蛙目(がいろめ)粘土(※3)を混ぜるという調合が行われています。また、鬼板(おにいた)と呼ばれる天然の酸化鉄が混じっており、その分量を調整することによって、竣工時の色彩を忠実に復元しています。※1:外装材とは建物の外部を守る材料のことで、外壁をはじめ、タイルや瓦なども外装材にあたる。
※2:木節粘土とは鉱物の一種を主成分とする堆積粘土で耐火性、可塑性が高い粘土。
※3:蛙目粘土とは鉱物の一種を主成分とする花コウ岩、花コウ斑岩などを母材としてできた風化残留粘土。

調合のコントロールや“人の手”によりバラつきを再現

一方で竣工時の技術的未熟さに起因する、現在の性能からすると劣った部分は見直されました。高い吸水率や裏に凸凹がないタイルなどがそれにあたります。
しかし同時に、竣工当時の“バラつき”が醸し出す手触り的感触と、そういった性能の更新を、どうやって両立するかということが課題になっていました。
そこで、実際どのように製造したかと言うと、オリジナルのものは偶然その粘土の質によってバラつきが生じていたわけで、今回の場合は土の調合を細やかにコントロールすることで、色調のばらつきを再現しています。また、タイルの整形後にスクラッチ(※4)を手でかけて、切断加工を行っています。焼成(※5)までの間の工程を人の手で行うことによって、バラつきを再現しているのです。 ※4:スクラッチとはタイルに多数の細い溝の模様を設けること。
※5:焼成とはタイルを焼くこと。焼成方法の違いや温度の差などによっても、タイルの色や表情に違いが生まれる。

凹凸の表情を作りながらタイルの落下防止にも対応

また、大隈講堂のタイルのパターンは、タイルそのものの大きさが概ね、横230mm、縦62mmという横長のものが使われており、厚みは25mm程度です。縦の目地(※6)に関してはほぼ突き付け(※7)で、伸縮目地(※8)は取られていない状態です。
逆に横の目地は12mm取られていて、縦と横で目地の幅が異なります。これは落下の危険性が高く、素材自体が伸縮した時に悪影響を及ぼす可能性があるということで、脱落防止のステンレス金物を併用し、接着貼り工法(※9)としています。また、タイルの横目地に関してはタイルの下端部分をへこませ、タイルの上端部分までななめに出す形状の、いわゆるしのぎ目地を採用して、凹凸の表情を作っています。※6:目地とはタイルなどの建築物において少し間隔を空けた部材間の隙間・継ぎ目の部分。
※7:突き付けとは板等の接合法の一つで2つの部材をぴったり突き合わせて接合していくこと。
※8:伸縮目地とはタイルなどが外からの荷重や温度伸縮によって変形し、亀裂やひび割れを起こすことを防止する目的で設けられる目地。
※9:接着貼り工法とは、水を使わず、下地に専用の接着剤を使ってタイルを張り付ける工法。接着力によってタイルがはがれ落ちることを防止する。